先日、お客様からこんなお問い合わせをいただきました。
「レーザープリンターのトナーカートリッジを交換するとき、少し粉がこぼれた。少し吸い込んだかもしれない。この黒い粉は発がん性があると思うので、健康が心配」
そうですよね 、ご心配はごもっともかと思います。
では、今回はトナーパウダーの成分などについて解説して いきます 。
トナーパウダーの「黒」は発がん性の可能性があるカーボンブラック
モノクロレーザープリンター、あるいはカラーレーザープリンターの「ブラック」の色のモトは「カーボンブラック」と呼ばれる顔料 です。
カーボン、つまり「炭」 です。
『焦げたものを食べるとガンになる』ということ の真偽はともかく、カーボンは確かに発がん性が疑われています。
専門機関であるIARC(国際がん研究機関)の分類によると、カーボンは「2B」というグループに分類されます。
これは、上から3番目のカテゴリで、「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」という物質となります。はっきりと「発がん性がある」ではなく「発がん性がある可能性がある」という、奥歯に物が挟まったような分類です。
これは「ヒトへの発がん性については限られた証拠があるが、実験動物では十分な証拠のない場合」か、「ヒトへの発がん性については不十分な証拠しかないあるいは証拠はないが、実験動物は十分な発がん性の証拠がある場合」に、このカテゴリに分類されるとのことです。
つまり「発がん性がある」と言い切るには『証拠不十分』 のよう です。
このグループ「2B」には、他にどのような「危険なもの」が含まれるかというと、例えば重金属の「鉛」、防虫剤に使われる「ナフタレン」。この辺は何となく「食べちゃいけないやつだな」ということが分かります。
ところが、「睡眠薬」や「抗がん剤」の一部も「2B」に分類されていて、さらに「アジア式野菜の漬物」という意外なものも含まれます。
「漬物」がここに入ってくる理由は、日本のいわゆる「漬物」や韓国のキムチの中に、低濃度のニトロソアミンという物質が発見されることがあるからだそうです。
「健康にいい」とも言われる発酵食品も「カーボン」と同じ分類に入ってしまっているので、どの程度「体に毒」なのか、情報が集まれば集まるほどよく分からなくなります。
ともかく、カーボンは、「発がん性が非常に強い危険なもの」というものではなさそうです。
蛇足ながら、「タバコの喫煙」「無煙のタバコ製品」と「アルコール飲料」は、「ヒトに対する発がん性が認められる」とはっきり表記される、一番上のクラスの「グループ1」です。吸いすぎ・飲みすぎには気を付けましょう。
トナーパウダーに含まれるカーボンブラックの量は?
では、「発がん性がある可能性」を疑われるカーボンは、トナーカートリッジの中身にどのくらい含まれているのでしょうか。
真っ黒い粉を見ていると、ほとんど全部カーボンなんじゃないか、と思いますよね。
モノを輸入するときなどに必要な書類のひとつに「MSDS」というものがあります。マテリアル・セーフティー・データ・シートの略で、2012年からは「マテリアル」が取れて「SDS」に統一されました。
何が書いてあるかと言うと、その製品の組成、例えば当社が扱っている液体のインクでしたら、「水:80%」「有機成分:10~15%」といった具合に書かれています。他に、可燃性の有無など、輸送や保管をする上で安全かどうか、といった情報が記載されています。企業秘密があるので、ざっくりとした記載になりますが、SDSを見るとだいたいはどんな材料でできているのか分かります。
「トナーパウダー」のSDSを見てみると、「樹脂」が一番多く、85%以上。その他、添加物がわずかに入っていて、問題の「カーボンブラック」は5%程度です。
物によっては「1~10%」と記載されていることもありますが、これは企業秘密を守るために はっきりと分からないように書いてあり 、それでも最大で10%のようです。
ブラックのトナーパウダーは本当に真っ黒な粉なのですが、意外なことにカーボンブラックは5%程度。ほとんどがプラスチックです。
プラスチックも大量に吸いこめば体に良くないですが、「発がん性がある可能性がある」というカーボンブラックは、トナーパウダー全体の1/20。かなり薄まった印象です。
レーザープリンターの体への害は?
発がん性はそれほど強くなく、また含有率も意外と少ない、このトナーパウダー。
生き物に害がないかどうか、メーカーによって調査されています。
レーザープリンターを販売している各メーカーの安全データシートを参照すると、多くのメーカーの資料に「2年間にわたり、濃度を変えてラットにトナーパウダーを吸わせる」という、ラットにとっては迷惑極まりない実験を行ったと記載されています。
その結果、高濃度のトナーパウダーを毎日吸わされたラットの肺には「軽度の繊維症」が見つかったそうです。繊維症というのは、病気ではありますが、がんではありません。
濃度が低い(1 mg/m3)環境にいたラットには、変化がなかったそうです。
通常の使用状態だと、トナーパウダーが1 mg/m3という量でプリンターから放出されることはありません。
純正品はもちろん、当社が販売している互換トナー、再生トナーも同様です。
万が一、トナーパウダーがプリンターの外にまで放出される状態だと、余分なトナーパウダーを回収する「廃トナーボックス」がすぐに満タンになってしまいます。そんな粗悪なトナーパウダーでは、既定の枚数の印刷ができませんので、提携工場の抜き取り検査で失格となり、当社の倉庫には入ってきません。
ただ、残念なことに、互換トナーカートリッジや再生トナーカートリッジの中には、トナーパウダーが定着せず、プリンター本体の冷却用のファンの風に乗って、プリンターの外にトナーパウダーが放出されている疑いが強いものももあります。こういったトナーカートリッジは、廃トナーボックスが早々に満タンになるので、「少ししか印刷できない設計」になっていることもあります。
「妙に早く使えなくなってしまったけど、安かったから、まあ、いいか」と納得されてしまう方も多いようですが、もしかしたら、そのトナーパウダーは発がん性のある物質を室内に撒き散らしているかもしれません。
互換トナーは多くのショップで販売されていますが、健康へのリスクも考慮して、ある程度しっかりとした会社からご購入されることをお勧めします。
分かりやすい基準としては、ISOや、トナーカートリッジの国際品質基準である「STMC」を取得した工場で生産されたもの 、表記された商品で、なおかつ、何かあった時にはすぐに電話やメールで連絡が取れるショップが良いかと思います。
問い合わせ先の電話番号が海外になっていたり、「お問い合わせはメールのみ」といった、連絡がつきにくい業者から の お買い求めは、ご注意ください。
「吸い込んでも全く害がないトナーがある」という噂について
ネット上の「何とか質問箱」のような掲示板で、「環境にやさしい、というマークが付いているトナーだったら、いくら吸い込んでも大丈夫」という書き込みを見つけました。
また「大豆由来の成分を使用しているものは、食べても大丈夫なくらい安全」という記載も見たことがあります。
しかしこれはどちらも、的外れな情報です。
トナーカートリッジにはいろいろな規格がありますが、ブラックの「色のモト」は例外なく「カーボンブラック」という顔料です。従って、先述の通り、「いくら吸い込んでも大丈夫」とは言い切れません。
また、『大豆由来成分 が? 』というのは、トナーカートリッジではなく、液体のインクのことかと思います。大豆からはトナーパウダーは作れません。また、大豆由来成分を使用したインクについても、食品としての基準をクリアしたもの以外は、口に入れるべきものではありません。
当「インクペディア」も「インターネット上の情報」ではありますが、連絡先 が 分からない人からの情報は鵜呑みにしないよう、注意しましょう。
万が一、大量にこぼしてしまった場合は?
滅多にないことではありますが、トナーカートリッジをセットしようとしたときに、誤ってストッパーなどを外してしまい、トナーパウダーがこぼれてしまうことがあるかもしれません。
トナーパウダーは「触ると危険!」というものではありませんが、目などに入ると良くありません。
万が一、目に入った場合はよく水で洗い流し、医師の診察を受けることをおすすめします。
また、万が一口に入った場合は、大量の水で念入りにうがいを行ってください。吸い込んだ場合はうがいをして、空気が新鮮な場所に移動してください。手や皮膚に付いたものは、石鹸で落ちますのでよく洗ってください。いずれも、異常があるようでしたら医師の診察を受けることをおすすめします。
というのも、トナーパウダーは食品ではありません。メーカー・販売店としては、お客様の身に何かあっては大変なので、「医師の診察」をおすすめします。
ちなみに、服に付いたトナーパウダーは、あわててこすってしまうと落ちにくくなります。
濡れた布巾などで軽くふき取った後は、洗濯洗剤や台所洗剤で洗ってみてください。トナーパウダーは「細かいプラスチックの粉」なので、インクと違って「染み込む」ということはありません。油汚れと同じ対応方法で洗っていただければ落ちるかと思います。私も何度か服に付けてしまったことがありますが、石鹸など身近な洗剤で落ちました。
一方、こぼれたトナーパウダーですが、マスク・ゴーグル・手袋などで装備を整え、絞った布巾などでふき取ってください。
絶対にやってはいけないのが「掃除機で吸う」という処理方法です。
粉が飛び散ったら掃除機で吸いたくなりますが、トナーパウダーは非常に細かい粉末ですので、掃除機の中で粉塵爆発を起こす可能性があります。
実際のところ、トナーパウダーが掃除機の中で粉塵爆発を起こした、という話は聞いたことはないのですが、可能性はゼロではないので、事故を避けるために掃除機は使わないでください。
また、掃除機で吸ってしまうと、掃除機のフィルターを掃除する際にトナーパウダーが空気中に舞ってしまい、周囲を汚したり、吸い込んでしまう可能性があります。
お手数でも、濡れた布などでそっとふき取っていただくのが一番安全です。
今回は長くなりましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
インクのチップスでは、自社商品の宣伝だけではなく、プリンターを使う全ての方のお役に立てる情報を今後も発信していけるよう努力し てまいります 。
今後とも、インクのチップスをよろしくお願いいたします。
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